会長挨拶

日本哲学会会長就任挨拶

  2017年9月 加藤泰史

 五月の新理事会で日本哲学会の会長に再選されました、一橋大学の加藤泰史です。引き続き二年間お世話になることになりましたので、今回もHPの場をお借りして会員の皆さんに再任のご挨拶を申し上げます。

 すでに新任の時にも言及いたしましたが、文部科学省のいわゆる「6・8通知」によって顕在化しました人文社会科学研究の危機的情況は現在も進行中で今後さらに悪化することが予想されます。それに対して私は二年前の会長就任挨拶の際に、「時代のこの動きに働きかけ、これをみずから克服してここから抜け出してゆくためには、まさに当事者である私たち哲学研究者がみずから智慧を絞るほかありません。そのためのプラットフォームとなるのが言うまでもなく日本哲学会であり、非力ながら私は会員の皆さんとともに、この時代の危機に立ち向かう所存です」と書きましたが、この思いは今も変わるものではありません。

 これまでの二年間では、公募論文の査読に関して若手会員諸氏からの要望の強かった「ブラインド制」を導入するとともに、欧文機関誌「Tetsugaku: International Journal of the Philosophical Association of Japan, Vol.1(2017)」もWeb上でこの4月に無事に発刊することができました。この場をお借りして日本哲学会会員諸氏のご協力と前編集委員長および編集委員諸氏ならびに欧文誌部会長(副編集委員長)および欧文誌部会諸氏のご努力にあらためて感謝申し上げます。またさらに、日本哲学会の「男女共同参画・若手研究者支援WG」が中心的な役割を果たして「人文・社会科学学協会男女共同参画推進連絡会」がこの5月に発足いたしました。これは、人文社会科学系諸学協会が智慧を出し合って人文社会科学の危機に対抗するための橋頭堡にもなりうると期待できます。「連絡会」発足に向けて協力してくださった会員諸氏と前WG座長およびWG諸氏に感謝申し上げます。

 こうした動向に棹さしながら今後の二年間で私は、日本哲学会が担うべきプラットフォームとしての機能をさらに具体化してゆくつもりです。以下でこの具体化に関して、三つの観点から説明してゆきたいと思います。

(1)先程述べました人文社会科学研究の危機は特に若手哲学研究者に対するしわ寄せとなって現れていますので、「男女共同参画・若手研究者支援」の観点からまず若手哲学研究者支援として修士課程の大学院生を中心にした研究発表および論文発表の場を新設したいと思います。この新設に関してはすでに理事会でも承認を得て編集委員長を中心に具体化を検討していただいています。また、男女共同参画の観点からは、今回のアンケートでも大きな賛同を得ることができました役職の女性枠を次回の選挙から理事および評議員に関して設ける予定です。この女性枠も理事会で承認を得ておりますので、経験則的に有効とされる三割の枠設定を目指して選挙管理委員会委員長を中心に制度化の努力をしていただいています。さらに女性会員向けに、「女性ランチ会(仮称)」とも呼ぶべき女性会員専用の交流の場を実現すべく「男女共同参画・若手研究者支援WG」の座長に智慧を絞っていただいています。

(2)次に国際化の観点から、国際交流も推進しなければなりません。従来の「日中哲学フォーラム」の継続はもとより、今回の一橋大会から実現できました「イギリス哲学会」との交流もさらに発展させてゆきたいと思います。今回は「イギリス哲学会」から、University of YorkSarah Hutton教授とQueen’s University BelfastJoe Morrison博士を派遣していただきましたが、いずれ双方向的な関係に転換させて日本哲学会からも派遣できるようになればと願っています。

(3)最後に大会運営の観点から、年に二回の大会開催の可能性について問題提起をここで行っておきます。「哲学教育WG」からWG内部での議論が理事会で報告された際に、その一つとして年に二回の大会開催の問題がありました。かつて日本哲学会は実際に年に二回の大会開催を行なっていました。たしかに年に二回の開催は開催校にも負担がかかりますが、しかし他方で今回の一橋大会でも金曜の夕方から公募ワークショップを開かざるを得なかったように、年に一回の大会開催ではかなりの過密スケジュールになっています。人文社会科学の危機に直面して日本哲学会が以前よりもより多くの機能を引き受けなければならなくなっていますので、これは構造的な問題だと言えましょう。開催校に過重な負担をかけないような仕方で年二回の大会開催が可能かどうかを、理事会で時間をかけて慎重に検討してゆきたいと思います。

 危機の時代はまた同時に哲学が社会から求められる時代でもあります。このとき日本哲学会にも「社会性」が要求されましょう。私は前回の挨拶文の中で日本哲学会の「civic turn」ということに言及して日本哲学会の変貌に期待を表明いたしました。現実には、しかしながら、「6・8通知」に関して国内ではもうほとんど話題にもなっていません。それに対して、例えば「ドイツ研究振興協会(Deutsche Forschungsgemeinschaft)」をはじめとしてこの問題に関する日本の人文社会科学系研究者の対応および動向に関心を持ち続けている海外の学術組織もあります。このように国内よりむしろ海外の方で危機意識がより強く共有されています。これは、日本哲学会の社会的基盤がまだ十分ではないことを含意しているのではないでしょうか。しかしまた、私たちの日本哲学会には独自の強みもあると思います。日本哲学会の中の少なからぬ会員諸氏が関わっている「哲学カフェ」です。「哲学教育ワークショップ」と同じようにこの活動は、日本哲学会が社会と連携してゆく一つの可能性を示唆しており、長期的には日本哲学会の社会的基盤を強化してくれるでしょう。その意味で「哲学カフェ」を無理のない仕方でネットワーク化することを具体化する時期に来ているのではないでしょうか。前回と同様の私からのささやかな問題提起であります。

 最後に再度の就任挨拶を終えるにあたって、日本哲学会の会員の皆さんには今後とも学会運営での積極的なご協力を賜りますよう、あらためてお願い申し上げます。

日本哲学会会長 加藤泰史

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