会長挨拶

日本哲学会会長就任挨拶

  2021年8月 一ノ瀬正樹

 一ノ瀬です。前期2019-2021の日本哲学会理事会に引き続き、今期2021-2023の新しい理事会においても会長を拝命し、再任することとなりました。また2年間、会員の皆さま、そして評議員、理事の皆さまのご協力をいただきながら、日本哲学会の運営に努めてまいりたいと存じます。なにとぞどうかよろしくお願いいたします。
 この2年間を振り返るとき、なにより、新型コロナウイルス感染症問題に言及しないわけにはまいりません。まずは、岡山大学にて開催予定であった2020年大会が中止となってしまいました。それに対する代替措置として、2020年9月に、日本哲学会としては初めての試みですが、オンラインによる特別臨時大会を開催いたしました。総会もそこで開催しました。きわめて希な、緊急的な措置でした。この臨時大会に向けて万端の準備をしてくださいました日本大学文理学部の旧事務局の皆さま、とりわけ事務局長の任を引き受けていただきました古田智久理事には、この場を借りて深くお礼申しあげます。
 怪我の功名とでも言いますが、実は、2020年9月のオンラインでの特別臨時大会は、アンケートから判断する限り、大変に好評でした。インターネット環境の普及と高性能化ということももちろんありますが、そもそも、旅費の問題で出席を躊躇うような方々が容易に参加できることが高評価の大きな要因であったかと思われます。現状から予測する限り、たとえコロナ問題が収束したとしても、会議や研究大会の一定の部分がオンライン化されていくのは必定であると考えられますので、日本哲学会としても非常に有意義な先鞭を付けられたと理解しています。
 しかし、私たちとしてもコロナ感染症問題がこのような形で2021年後半にまで影響を及ぼす、いやむしろ影響を拡大していく、というようには確たる予想をしていなかったので、2021年の大会も通常開催ができないとなったときのショックは大変大きなものでした。前年度の岡山大学大会が中止になっていたので、再度岡山大学に開催校をお願いしていたのですが、結局実現されることはありませんでした。不可抗力とは言え、岡山大学さんには、ご苦労をお掛けしてしまい、大変恐縮に存じますとともに、二年も続けて準備の心積もりを快くお引き受けいただいたことに深く感謝申し上げます。
 けれども、私たち日本哲学会は、2020年9月の経験を生かして、2021年5月に正式な研究大会を初めて全面オンラインにて開催し、ともかくも大過なく終えることができました。責任者として本当に安堵した次第です。事務局の日本大学文理学部の皆さま、そして研究大会成功にご協力いただきました会員の皆さまに、心より御礼申しあげます。私たち日本哲学会は、「転んでもただでは起きぬ」の精神で、このたびのコロナ問題をかえってポジティブに捉え返して、先にも触れたような、将来必ずやそうなるであろうオンライン併用の学会運営にシフトする貴重な機会としていきたいと存じています。2022年5月の研究大会は九州大学での開催を予定しています。開催方式は未定ですが、もしかしたら、オンライン併用という新しい形での開催もありえます。そして実際、日本哲学会は、すでに一つの実例を介して、新しい運営のフェーズに入っています。すなわち、2021年9月から正式にオンラインでの日本哲学会秋季大会を開催することになったことです。この秋季大会も、回を重ねて、日本哲学会の恒例の行事として、会員の皆さまの研究発表、相互討議、の場として定着していくことを心より願っております。
 さらに、いくつかの報告と展望を簡単に述べます。一つ目は、研究倫理についてです。日本哲学会にはこれまで「日本哲学会研究倫理規程」というものがありましたが、それはあくまで剽窃や盗用を主な対象としたものであり、今日の研究者倫理の多様化・複雑化に照らして不十分ではないかという雰囲気が醸成され、思い切って「ハラスメント防止」についても一定のガイドラインを作っておくべき時期に来ているのではないか、ということになりました。そして、前会長の加藤泰史理事のもと、担当委員会にて、多大なご苦労のもと原案を起草していただき、前回の総会にて承認していただきました。今後も、この件については検討を重ね、改善すべき点は改善していきたいと思います。
 二つ目は、事務局体制についてです。前期理事会の任期末に近づいた2021年2月に、事務的作業をしていただいた方々がいろいろな事情で退任したいということになりました。日本哲学会としては、思案の末、学会の事務作業の膨大化に鑑みて、やはりどこか適切な業者に事務作業をほぼ一括してお願いする時期に来たと判断いたしました。かくして、「創文印刷」さんという業者に委託することになり、すでに委託を介した事務局運営がスタートしています。いろいろと詰めなければならない案件がいくつかありますが、なんとか軌道に乗せたいと努めています。今期2021-2023の日本哲学会事務局は、早稲田大学哲学研究室にお引き受けいただきました。岩田圭一理事に事務局長を担っていただき、「創文印刷」との相談や打ち合わせなど、すでにいろいろとご尽力いただいています。日本哲学会の事務局や理事会は、当然ながらすべてボランティア体制で進められています。ご多忙の所ご尽力いただいている理事や事務局の皆さんには、感謝するばかりです。
 三つ目として、役員選挙に電子投票を導入したことを報告いたします。これによって開票作業の効率が飛躍的に高まりました。これまでのアナログなやり方ですと、開票作業が深夜にまで及ぶことがありました。ボランティアで行っていただく以上、そうした現状は改善しなければならなかったわけで、そうした改善が実現されたことは大きな前進です。もちろん、今後も役員選挙を電子投票で実施する予定であります。会員の皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。
 これ以外に、WCP招致問題に象徴される国際学術活動の案件、男女共同参画問題、初期キャリア研究者支援問題など、きわめて重要な問題が山積しており、日本哲学会としても一つずつ丁寧に対処していこうとしております。ただ、多少の成果はたしかに生まれております。むろん、秋季大会の開催を決めたことも一つの成果ですが、それ以外に、2021年4月には、American Philosophical Association (APA) Pacific Divisionにて、APAと日本哲学会との共催で”Ethics and Metaphysics: Dialogues Between Japanese and American Philosophies”というセッションを開催し、国際学術活動の一つを遂行することができました。石田正人会員の司会のもと、出口康夫会員、村上祐子会員、そして私、が提題をいたしました。また、おもに初期キャリア研究者支援のカテゴリーに属する活動として、「日本哲学会特任委員」の制度を発足させ、初期キャリアの会員に就任していただき、初期キャリア会員と理事会との間の風通しをさらに良好にする一助とすることになりました。こうした新しい動きが、今後の日本哲学会の展開に正的影響をもたらし、結実していくことを願っています。
 なお、この場を借りて、一点、会員の皆さまにぜひにもお願いしたいことがあります。日本哲学会では、ご承知のように、学術雑誌を刊行し、公募論文を募っております。その際、必然的に「査読」というプロセスが発生いたします。日本哲学会では、基本的に査読者を会員の中から選んでお願いしています。しかし、近年の著しい傾向として、査読者になることを辞退する会員がきわめて多いのです。すでに記したように、日本哲学会はボランティアベースで、哲学研究の発展のために運営されている任意団体です。会員の皆さまの積極的な関与なしには成り立ちません。どうかこの点ご考慮いただき、査読を可能な限りお引き受けいただけますよう、ここに伏してお願いいたします。
 ともあれ、今後も、一歩ずつ、いまの時代の学問的要請に注意深く配慮をしつつ、日本哲学会が、日本のそして世界に開かれた、哲学研究の一つのハブとなるべく、努力し前進していきたいと思っております。それもすべて、会員の皆さまのご支援とご協力あってのものです。会員の皆さまにおかれましては、今後ともご協力の程なにとぞどうかよろしくお願いいたします。以上、会長挨拶といたします。

日本哲学会会長 一ノ瀬正樹

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